「寄り添うツイッター」が教えるツイッターにおけるコピーライティングの心得

寄り添うTwitterが教えるツイッターにおけるコピーライティングの心得

キングジム公式ツイッター担当者著の『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』(KADOKAWA)で、公式ツイッターにおけるコピーライティングの心得を学ぼう。

寄り添うツイッター

「寄り添うツイッター」の著者について

今回の記事は、キングジム公式ツイッター担当者の初出版となった『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』を紹介する。

もうタイトルでお察しのとおり、本書はキングジム公式ツイッター(@kingjim)の担当者つまり「中の人」による、公式ツイッター立ち上げから2020年現在に至るまでの10年間にわたる「苦悩」と「喜び」の軌跡を記したものだ。

ちなみに、キングジムは東証一部上場企業、創業1927年の老舗文具メーカーだ。

オフィスのファイル・バインダー「キングファイル」やラベルライター「テプラ」を職場などで見たことが全く無いという人はほぼいないのではないだろうか。近年ではデジタルメモ「ポメラ」などのヒット商品、独創的な新商品を次々と生み出している会社だ。

「寄り添うツイッター」が教えてくれる公式ツイッター運営の心得

ツイッター歴の長い人なら、「キングジムの姉さん」を一度くらいは耳にした(目にした)ことがあるかもしれない。

本記事の読者にも既にフォロワーになっている人も多いだろう。

企業の公式ツイッターの担当者がフォロワーから、そう親しみを込めて呼ばれている例は珍しい。キングジムの公式ツイッターのフォロワーは42万5千人を超えている(本記事執筆時点:2021年8月)。ちなみに、キングジム公式は現在、この「姉さん」と「三女」で運営されている。

本書は、コピーライティングという観点から見れば、やや異質な本かもしれない。

ツイッター黎明期に企業公式アカウントの運営を社長から直々に一任されてしまった若き広報担当者(「姉さん」)の足跡を辿るものだ。

ツイッター運用やコピーライティングのハウツーが詰まったものか、と言われると、少し違うかも?と答えるしかないが、とにかくコピーライターとしてSNS活用や運用を担う機会があるなら、一度は必ず読んでおきたい本であることは間違いないだろう。

何より、本の内容、表現もコピーライティングにおいて参考になるところが多いうえ、担当者が当時直面したエポックメイキングとなった一つひとつの出来事の波乱万丈感がたまらない。まだツイッターのユーザー数が少なく、企業公式アカウントが珍しい時期に、オフィス用の事務用品メーカーというお堅いイメージのある会社の一人の社員本人が綴った記録だ。

企業の中で働く普通の人が真摯に取り組むことで生み出した、一つの奇跡の物語を読んでいるようで、時間を忘れて一気読みしてしまうような面白さがある。

「寄り添うツイッター」に学ぶ親近感のあるコピーライティング
ネット発信の目的を明確にする

キングジム公式ツイッター担当者が目的としていることは、「キングジムを好きになってもらうこと」の一点に尽きると言っている。

ツイッターであろうと、Webやその他のSNSであろうと、ネット発信の目的が明確であることは非常に重要だ。この目的が不明瞭であれば、コピーライターは想定する読み手に正しい口調や表現でライティングすることが困難になる。だが、その目的のために、キングジム公式ツイッター担当者は、「楽しんでもらうこと」を第一に考え、親近感を生み出すことを優先した。

広告におけるコピーライティングにおいて販売の目標を設定し、ターゲットを絞って発信するという型どおりの手法が、ツイッターでは通用しないだろうということが、当初からキングジム公式ツイッター担当者の考えにあったようだ。だからこそ、狙いどおりに事が進んだわけではなく、試行錯誤の連続だったことが伺える。

初期には、まるでBOTのように、天気のつぶやきを繰り返していた時期があったそうだ。しかし、キングジム公式のフォロワーがそれを望んでいるはずがない。天気を知りたいなら、より詳しい天気予報アカウントなどをフォローすれば足りるのだ。それをフォロワーから指摘されることで、

  • つぶやいたほうがいいこと
  • つぶやいていいこと
  • つぶやく必要のないこと
  • つぶやかないほうがいいこと

色分けを意識するようになったという。

その一方、アカウント開設まもなく、まだ画像付き投稿機能がツイッターにない時期に、文字や記号を組み合わせて絵を描くアスキーアートをスタートした。アスキーアートのハシリと言ってもいい。これが、キングジム公式のお家芸として注目を集めた。

その後は、画像付き機能がツイッターに加わると、「今日のおやつ」を紹介する「おやつイート」を始めるなどしている。これも、フォロワーに親近感をもってもらうことに大きくつながっている。おやつの投稿に対してフォロワーからのリプライが返ってくる。企業の公式アカウントにもかかわらず、構えない、心の交流がフォロワーとの間に生まれているのだ。

「寄り添うツイッター」から学ぶコピーライティング

前述のとおり、本書はいわゆるハウツー本とは少し趣が異なる。それでも、現在のツイッターというSNSプラットフォームでの公式アカウント運用において参考にできるノウハウも記されていると言えるだろう。

参考にしたいツイッター運営ノウハウ

  • 目先の利益よりも「楽しんでもらうこと」「楽しむこと」
  • 役に立つ情報発信をする
  • タブー事項は避けたうえで「時事ネタ」をうまく盛り込む
  • ぱっと見10秒でわかるようにする
  • 専門用語を避ける
  • ツイートは小学生にもわかるように平易にする
  • プレスリリースとは異なる口調(タメ語あり)
  • 読み手をわずらわせない程度の頻度でツイートする
  • リプライを通じて、読み手の属性を想像し、それに合った時間帯に投稿する
  • 話題狙いよりも「信頼の形成」にフォーカスする
  • 会話のキャッチボールは1回につき2〜3往復にとどめて、内輪感を避ける
  • 会社の理念を理解している

コピーライティングの観点に絞るならば、適切な口調で、瞬時にわかる文章を発信するという点が参考にするべきだろう。

プレスリリースは中学生がわかるレベル、ツイッターは小学生がわかるレベル、という記述があったが、まさに「姉さん」らしい表現でわかりやすい。

「漢字を開く」(かな文字で書くこと)ということも正しい口調の選択とともに、わかりやすさ、読みやすさを追求するうえでは大切なことだ。

昨今では新聞や雑誌でも「漢字を開く」表現は随所に見られるが、Webなどでのコピーライティングにおいても気にとどめておくと良い点だろう。

コピーライティングで活用するポイント

「寄り添うツイッター」から学ぶツイッターの影響力

本書で紹介されているエピソードに、ひとつのリツイートで商品が完売になった「事件」がある。

2018年10月に検索で上がってきた「マウス型スキャナ」を紹介した投稿動画をリツイートしたところ在庫が一瞬でほぼ消滅したというものだ。キングジム公式ツイッター担当者としては、売りたいという意図ではなく、投稿動画のクオリティに感銘を受けて共有したくなったという動機だったが、それが直接売上につながったわけだ。

ツイッターならではの影響力の強さを物語る実例と言えよう。コピーライティングを行うなかで、このようにツイッターの影響力を考慮して活用することも是非参考にしてみてはどうだろう。

「寄り添うツイッター」が教える企業アカウント間のつながり
企業の他部門を巻き込むようなコラボレーション

上記のようなノウハウも記されているが、それでも本書をコピーライティングのハウツー本とは異質だと思うのは、キングジム公式ツイッターと他社公式ツイッターとの間での些細なやりとりが、企業の他部門を巻き込むようなコラボレーション(協働)に発展したエピソード例が印象深いからだ。

東急ハンズ公式とのコラボにより発売された「トラベル・オレッタ」。企業間のきっかけがツイッター上であるうえ、企画会議の模様をツイッター上でも随時投稿することで、企業間の交流の臨場感をフォロワーに伝えた。そして、それがそのまま購買にもつながった。

井村屋の「あずきバー」と「キングファイル」の限定コラボ商品「あずきバーキングファイル」も、公式アカウントう担当者間の日頃の交流から生まれたものだ。井村屋公式ツイッターとの面白いエピソードは、本書を是非読んでもらいたい。