「伝わるWebライティング」が教える一貫したスタイルの大切さ

ニコル・フェントン(Nicole Fenton)、ケイト・キーファー・リー(Kate Kiefer Lee)共著の「伝わるWebライティング スタイルと目的をもって共感をあつめる文章を書く方法」(ビー・エヌ・エヌ新社)を通じて、一貫したスタイル(表現方法:サイト構成や書き方のルールなど)と明確な目的意識を持ってWebのコピーライティングに取り組むことを学ぼう。

「伝わるWebライティング」の共著者について

今回の記事は、ニコル・フェルトン(Nicole Fenton)とケイト・キーファー・リー(Kate Kiefer Lee)という2人の共著で、2014年に発行された原題「Nicely Said」の翻訳版を紹介する。

日本語版である「伝わるWebライティング スタイルと目的をもって共感をあつめる文章を書く方法」は2016年にビー・エヌ・エヌ新社から出版された。

共著者の一人、ニコル・フェルトンは、Facebook、Lab Zero、Mule Designでシニア・コンテンツ・ストラテジストとして勤めた後、AppleでWebライターとして活躍し、5年間コミュケーション部門を率いた経験のあるコピータイターだ。iPhoneやiPadの発売にも携わっている。フリーランス・ライターとして、Webライティングをワークショップで教えるなどの経歴を経て、現在はNavaという公共機関の情報発信をサポートする企業にて、シニア・コンテンツ・ストラテジストとして活動している。

また、もう一人の共著者、ケイト・キーファ・リーは、メールマガジン配信サービスやWebサイトサービスなどを提供するMailChimpにて、広報・コミュニケーション部門を率いている。A List ApartやForbesなどにWebコンテンツについて寄稿し、世界中で講演を行ったりもしている。

「伝わるWebライティング」のメインテーマは「スタイル」と「目的」

本書はWebデザインなどのテクニカルな内容に触れたものではない。Webサイトを構築するにあたり、コピーライターが重視し、サイト全体に一貫したスタイルと、目的を重要視したコピーライティングが求められていることを教えてくれる内容だ。

本書が解説する範囲は、Webサイトを構成する各種ページ全体を網羅しており、サイトの目的・ミッションステートメント設定から、作成計画、サイト設計、コピーライティング、法律的コンテンツ、エラーメッセージ設計、スタイルガイドの作成まで広範囲に及ぶ。

一見すると、これがコピーライターの仕事?と思ってしまうような事柄にまで、コピーライターは配慮すべきだと言うのだ。

「伝わるWebライティング」が教える法律的コンテンツ作成におけるコピーライターの役割

例えば、法律にかかわるコンテンツである規約や個人情報保護に関するメッセージは、コピーライターにとっては難解な言葉が多く、退屈な作業に違いない。しかし、共著者のニコル・フェントンとケイト・キーファ・リーは、法律的コンテンツであっても、コピーライターの仕事として対応することに一節を割いている。もちろん弁護士や法務部門の助けを借りるわけだが、これもコピーライターが作成するべき、れっきとしたコンテンツであり、おろそかにしてはいけないという。

本書も認めているように、世の中にあふれる規約の多くは出来の悪いものがほとんどだろう。確かに、Webサイトの規約や法律的コンテンツには、誰も知らないような専門用語にあふれており、同意書などの文章は長く、読みにくいものばかりだ。会社にとってのリスク軽減を確認していく弁護士側に対して、Webサイトをフレンドリーなものにして、難解な内容を易しく伝えるのはコピーライター側の仕事だ。

ただ両者の仕事上の立場は異なるが、対立するものではない。

こういった法律的コンテンツの場合、本書では表現よりも先にゴールとポリシーについて弁護士と話し合うことを勧めている。両者の役割の違いは、話し合いを通じてコンセンサスを得ることにより、解決べきだといっている。最終的には、読者がのみこめる、わかりやすさの実現をコピーライティングが優先すべきだ。

「伝わるWebライティング‘」はコピーライターを中心とした協同作業

コピーライティングの作業として、Webサイト構築を成功に導くためには、コピーライターは多くの関係者とコラボレーションし、協力関係の下でライティングに取り組む必要がある。

企業におけるコンテンツ作成、コピーライティング経験が豊富なニコル・フェントンとケイト・キーファ・リーの2人は、コピーライティングは、チームワークであることと言及している。

優れたWebサイトは、一人のコピーライターが全て単独で完成させるわけではない。

複数のレビュアー、ディレクター、ストラテジストなどとの協働によって生み出されるのだ、ということを読者は思い起こすだろう。

「伝わるWebライティング」が教える最適なコピーライティング

本書の中心的なイシューは、Webサイトの目的とスタイル(表現方式)が、想定する読者に対して最適であるかということをコピーライターに考えさせ、それにふさわしいコピーライティングをしよう、という点にある。

まず作成しようとしているWebサイト全体の目的やミッションが何で、それにふさわしいスタイルを選択せよ、ということだ。そして、そのサイトが想定する読者とはどのような人々なのかをリサーチし、しっかりと想定せよということから始まる。

本書では「ブランドの声」とも呼んでいる。ブランドの声は次の失敗例を見てもらえれば、意味がわかりやすいだろう。

ブランドの声の失敗例

  • 銀行がおどけた口調で表現
  • ペットショップが高尚すぎる口調で表現

前述のとおり、本書には利用規約にもコピーライティングのスキルや考え方が必要であることが述べられていることを紹介した。利用規約という「堅い」ページで、フランクでくだけたスタイルの文体や口調がふさわしいか、ということを指摘してくれている。

特にそのような口調の選択が重要なのは、Webサイトのフローにおいて読者が意図しない結果が表示された場合だ。

「伝わるWebライティング」が教える口調における注意点

本書では、ブランドの声に基づくスタイルの一貫性を重視しているが、一方で読者の感情や状況、コンテンツタイプに応じた適切な表現・口調の選び方を教えている。

例えば、ヘルプセンターで、テクニカルなトラブルに遭っているユーザーに対する文章ならば、丁寧に教え諭す口調であるべきだ、というような表現の選択だ。

各コンテンツタイプを目的を理解すれば、読者にふさわしく役立つライティングができるだろう。前後の文脈を十分に検討する必要があるわけだ。読者のその瞬間の気持ちに共感する文章がコピーライティングには求められる。

例えば、エラーメッセージや在庫切れの通知などの好ましくないメッセージを書く時は、まじめな口調にするのが得策だろう。不用意にジョークを挟んだり、不親切な短文で終わらせるべきではないだろう。

不適切な口調は読者にはストレスを与え、不満を感じる可能性がある。最適な口調を選択し、事情をはっきりと説明し、単刀直入に伝えて、不満が増すことのないように十分に気をつけなければならない。

悪気のない「すみません!」が全く違う印象を与える

  1. すみません! このページが見つかりません。
  2. すみません! 苦情が多く寄せられたため、あなたのアカウントは停止されました。

上記の2つの文章は、本書で取り上げられている具体例だが、同じ「すみません!」の後に、何を伝えるメッセージタイプかが異なるだけで、読む人の印象や感情的な反応が異なることは容易に想像できるだろう。A文はそれほど気にならないが、B文では感嘆符「!」が付いているだけで、読者にとってサイト側が事の重大性をむしろ軽んじているようで、ユーザーの気分をさらに害してしまいそうだと指摘する。

本記事を読んでくれているコピーライターを目指す皆さんにも、このような悪気のない口調の選択ミスは、もしかしたら身に覚えがあるのではないだろうか。

「伝わるWebライティング」が教えてくれる「読者を知ること」の重要性

本書の紹介の結びとして、本書において最も理解しておきたいことは、「読者を知る」といういうことがいかに重要であるかということだ。当たり前と言ってしまえば、それまでだが、コピーライターにとって、読者を知ることは、文章を実際にライティングすることに先んじて大切なことだ。

ときにはインタビューやリサーチを事前に行い、読者像を正確に描き出すことが、結果として良いコピーライティングを生み出すのだ。

以上