帯には「コピー1本で100万円請求するための教科書」と記載されている本書。本書が気になった方は、コピーライティングを仕事にしたい、既にライターである、コピーで稼ぎたい。そんな方々だろう。
ではここで質問。
年収いくらだったら、フリーランスのコピーライターとして成功したといえるだろうか。
これは、著者が、広告学校でコピーライターを目指す若い受講者にした質問だ。
あなたの答えはどうだろうか。
コピーライティング、あなたが稼ぎにしたいこの仕事は、世の中でどれほど価値のある仕事だと思うか。
そもそもコピーとは。
あなたはちゃんと理解しているだろうか。
著者は、多くの若手ライターや、コピーライティングに興味を持つ人が、その本質や社会的役割、コピーの価値を正しく理解していないと述べる。
正しく理解していないと、本当に稼ぐことは出来ない。やりがいもなく、面白くない仕事となる。コピーライターは稼げないものだという認識も生まれてしまう。
本書を読んで得られることは2つ
- コピーの価値やコピーライターの役割を本当の意味で知ること
- 本当に売れるコピーの書き方、そのために必要な知識や専門性
本書を読めば、売れるコピーの根本にあるものが分かるだろう。また、コピーライターがどのような業界と関わり、どんな風にクライアントとやり取りをし、コピーを作成していくのか。そのリアルも知ることが出来る。
著者:小霜和也
これまで関わった主なクライアントは、PlayStation、サントリー、キリン、宇宙航空研究開発機構、Reebok、Amazon、他30社以上。
Contents
本書は、本を読んでいるというより、著者の講義を聞いているようだ。
合間に挟まれる雑談のような小話は、頭をすっきりさせ、本書をより分かりやすくしてくれる。
「回り道コラム」というのが、各章にある。内容は、妻が著者に惚れる理由や、バンダイキャラクター研究所の「キャラクター商品に話しかけたことがあるか」というアンケートについて(ちなみに全年齢の32.4%がイエスと答えた)など。気楽に読める面白い内容だ。しかしそれが本編に繋がっている。
本編で得た重要な知識が、読みやすいコラムに反映されることで、より頭にすっと入ってくる。
著者は、女性の美肌アンチエイジング商品の広告に携わった際、ターゲット層にインタビューをした。そこで考えたフレーズが女性陣から大クレーム、恥ずかしくて逃げた出したくなったことがあるそうだ。
しかし、これがターゲットを決める際にやりがちな失敗を防ぐために必要な行動のひとつだという。
このアンケートの目的は、ターゲットインサイトを見極めるための情報収集だ。ターゲットインサイトとは、ターゲットが内に秘めている欲求、不安、そうした意識の下にある本音のことだ。コピーはそこに焦点を当てて作らないとターゲットの心に刺さらない。
著者は、メガネスーパーの広告に携わった際、ターゲットインサイトの見極めを誤り、失敗している。
原因は、勝手な「思い込み」と「情報収集不足」である。
ターゲットにインタビューする、Web掲示板や口コミを見る、必要があれば現場に行く。こうした事前調査を怠ると、「ターゲットはこう思い、こんなものを欲しているに違いない」と勝手な思い込みをしやすくなる。存在しないターゲットインサイトを作ってしまいがちになるのだ。
インタビュー中に厳しい意見を受けることもある。しかし、その分、間違ったターゲットインサイトでコピーを作ることを防げるのである。
本書では、より細かく、著者の実体験が記載されている。失敗したメガネスーパーに関しては、改めてターゲットインサイトを精査し、成功した例も載せている。
コピーライティングで一番重要なのは、机に座りアイデアを自分の中から生み出すことではない。コピーを書く前の行動の方が重要である。
事前の情報収集をさぼると、心に響くコピーは完成しない。そうすると、そのコピーを使った広告は役割を果たさない。商品は売れない。ライターも良い評価がもらえず稼ぎは上がらない。
それでも、事前調査をしない若手ライターは多いと著者は述べている。
理由は、コピーライティングについて正しい認識をしていないからだ。
では、コピーライティングとは何なのだろうか。
コピーライティングとは何か。多くの人が下記二つのどちらかの認識を持っていると著者は述べる。
- クライアントの指示通りの文章を書く仕事
- センスや才能で文章を書く仕事、センスが認められたらお金が貰える
しかし著者の考えは異なる。
コピーライティングとは何か。また、コピーの価値とは何か。
コピーライティング
・商品をいじらずに、商品の価値をあげること
コピーの価値
・モノとヒトとの新しい関係を創ること
どういうことだろうか。
「タグライン」というコピーを使い考えていこう。
タグラインとは、商品に「この商品はこういうものだ」という定義づけ(認識)をするコピーだ。
タグラインにおける、コピーライターの重要な役割は
- 消費者に商品の新しい価値を定義づけること
である。
例えば、スーパーにミネラルウォーターが売っていたとしよう。
子連れの母親がそれを見つけたとする。
母親には、もともと「ミネラルウォーター=水道水よりは美味しい飲料水」という定義があるとする。
この商品の近くに、「熱中症対策に!すぐ飲める常備水を、お子様の鞄に」というPOP(タグライン)を置く。それを読んだ母親の中で、ミネラルウォーター=熱中症対策、という新しい定義が生まれれば、今までと違った価値を感じ、その商品を買うかもしれない。
つまり、「ミネラルウォーター=水道水よりは美味しい飲料水」という定義づけが、タグラインにより商品の価値を上げ、母親の購入へとつなげた。モノ(商品)とヒトと(母親)の新しい関係を創ったのである。
これが、コピーライターの役割であり、社会におけるコピーの価値なのだ。
余談だが、本書に、蚊取り線香のタグラインに「肌を守って111年」というタグラインを付けた広告で朝日広告賞のグランプリを取った人の話がある。これは、蚊取り線香と、美肌にこだわる女性との新しい関係性を定義付けようとしたコピーである。
まとめると、コピーライティングの本質は、
- 言葉を使って、モノと人との新しい関係を創ったり改善することで、商品や企業の価値あげること
なのである。
では、売れるコピーを書くためにはどうしたらよいのか。本書の内容を一部、ご紹介しよう。
例として、ライターのあなたが、とあるクライアントからミネラルウォーターのコピーを依頼されたとしよう。
あなたなら、どんなコピーを考えるだろうか。
- のどが乾いたら、すぐ潤そう
- だれかの生命力
- 喉をならせ、リフレッシュせよ
実は上記のコピー、どれもアウトだと著者は述べる。
理由は、「商品」ではなく、水という「カテゴリー」を表すコピーになっているからだ。
このコピーは、どのミネラルウォーターにも当てはまる。さらに言えば、飲料カテゴリー全般に当てはまってしまう。
売れるコピーとは、人からの反応があり、その商品の購入に繋がるコピーだ。ターゲットがコピーを見て、他の競合商品ではなく、あえてその商品を選ぶかどうか。
つまり、広告コピーは、基本的に、カテゴリーではなく、商品のコピーでないといけない。
他の商品との差別化し、その商品の価値を上げるのがコピーの仕事である。
そこを間違えてはいけない。
また本書では、「ブランド」について深掘りしている。ブランドとコピーの関係は強い。どうして人がブラントを意識するのか、お気に入りのブランドの商品を買いたくなってしまうのか。そこには、人々の不安や欲求と、それを解決できた時の心地よさや快感が関連している。コピーでも重視されるものだ。
読めば、より人の心に刺さるコピーを書けるだけでなく、ブランドにかける企業の戦略や思いを認識でき、そこに携われるコピーライターとしての面白みも感じられるだろう。
では、このミネラルウォーターの売れるコピー、商品としてのコピーを書くにはどうしたらいいのか。
実は、今回の例でいうと、売れるコピーは出来ない。正確には、今のままでは、である。
何故なら、商品としての具体的な情報や競合商品との違いが分からないからだ。
このミネラルウォーターにはどんな魅力があり、販売元はどんなブランドで、競合商品は何か。これをUSP(競合優位性)と言い、このUSPとターゲットをしっかり押さえないとコピーは書けない、と著者は述べている。
つまり、最も近い正解は、「情報不足でコピーが書けない」となる。
ちょっといじわるな答えかもしれない。しかし著者は、同じようなお題を、自身の講義の受講生に出している。
本書では、USPやターゲットに関してより深掘りしながら、売れるコピーの書き方について基礎から丁寧に説明されている。是非読んで欲しい。
現代は「とにかく早く答えを見せてくれ」という時代だ。
必要な情報だけを、速く、簡潔に求められることが多い。
しかし、プロは先に答えを求めてはいけない。答えを求める方程式や定理を知る必要があり、自ら答えを導きだせるべきだと著者は主張する。
その為、本書には、広告コピーに必要なマーケティングや心理学などの基礎知識、専門用語も多々出てくる。それらを深く学びたい方へのおすすめ方法も掲載している。
心理学に繋がる内容でいえば、「人は合理的に行動しているようで、そうではない」というコラムが掲載されている。
ここでは、矛盾した人の心の動きや変化を感じることが、広告コピーには大切だと述べられている。
現代人は、広告に、自分の欲求や不安を解決してくれる希望をみていると著者は述べている。
プロのスポーツ選手と共通するものがある。
彼らが、なぜあれほど高額の報酬を得られるのか。
彼らの活動を見て、喜び、希望を持つ人がいるからだ。
コピーも同じ。心に刺さるコピーには、人の本音に語り掛かけ、自分の不安や欲求を解決できる希望を抱かせる力があるのだという。
本書を読めば、コピーライターの大変さや苦悩も分かるだろう。しかし同時に、その社会的価値や、やりがいも知ることが出来る。
きっとあなたを稼げるライターに近づけてくれるだろう。